哲学・倫理学の輪郭を(ざっくり)つかむための読書ガイド:最初の5冊編

2018-01-15 16:59:55 +0900 written by 裕介 長門

哲学や倫理学は長い歴史と伝統をもつ学問ですが、それにもかかわらず(あるいはそうだからこそ)標準的な教育過程を定めるのが難しい分野でもあります。もちろん、プラトンやアリストテレス、カントといったビッグネームの書いた古典的著作を読むことから始めるのも一つの手ではあります。しかし、そうでない仕方として「哲学にはどういうトピックがあるのか」とか「なんでそのトピックを面白がっている研究者がいるのか」といったテーマベースの入門の仕方もあります。この本棚では初学者が最初の一歩として「ざっくり諸テーマを理解する」ために有益と思われる本を選びました。 もう少し詳しめのガイドは以下で配布しているのでこちらもご覧ください。 「哲学・倫理学の輪郭を(ざっくり)つかむための読書ガイド」(http://nagatoyu.xsrv.jp/bookguide/)

1 哲学の問題群―もういちど考えてみること

タイトルに「問題群」とある通り、取り上げられているテーマが「人間とその生」「私と他者」「自由と行為」「知識と言語」「存在と世界」「善悪と価値」「社会と人間」「苦悩と幸福」と非常に幅広い。自分の気になっている問題が哲学のなかでどのように問題化されているか、を知るのに最適。前提知識もほとんど必要ないだろう。

2 哲学の道具箱

哲学書には普段あまり耳にすることのない概念(「トロープ」)や日常語と微妙に用法の異なる概念(「信念」)が複数登場するが、もちろん哲学者はそうした用語をはったりではなく特定の事柄を表現するのに便利だから使っている。この本は哲学書で頻出の概念や論法を「どういうときにどのように用いるのか」という点にこだわって紹介している。この種のテクニカルタームの勉強は後回しでよいと考えるひとも多いかもしれないが、早い段階で身に着けた方がずっと挫折や誤解は少なくると私は信じている。単なる用語集ではなく一度通読するのがよいだろう。姉妹編の『倫理学の道具箱』も併せて読みたい。

3 倫理学の話

倫理や道徳の問題は多くの人の関心を引くと同時に、「なんでそういえるのか」といった原理レベルにまで達するとかなり手の込んだ反省的思考が必要なものでもある。この本は倫理(道徳)がなにに基礎づけられているのかについて複数の候補(自己利益、共感、義務、幸福)を検討したのち、正義の問題を扱うという構成になっている。登場する学説は必ずしも時系列通りの順序ではないが独自の工夫された構成になっており、混乱が少ないだろう。古典からの引用も勘所が丁寧に説明されており、適当な誤魔化しのない誠実な本である。倫理学の問題に取り組みたいひとへの最初の一歩として強く推薦できる。

4 メタ倫理学入門: 道徳のそもそもを考える

「なにをなすべきか」を問う規範倫理学に対して、メタ倫理学は「そもそも、なすべき正しいことはなにか」や「倫理の問題に答えがあるとすればそれはどういう種類の答えなのか」を対象にした学問である。この分野はこれまで最適の入門書がなく、なかなか手を出しにくいせいで専門家向けのジャンルと思われていたきらいがあったが、むしろ初学者こそひっかかる問題が数多く含まれている。『メタ倫理学入門』はそのような需要に完全に応えて、非常に丁寧な語り口でメタ倫理学の最前線を見せてくれている。

5 哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))

哲学はいわゆる「クリティカルシンキング」と密接に関係がある分野である。問題に対して場当たり的に考えるのではなく、丁寧に問いを解きほぐして正しく、生産的に考える方法を身に着けるのに本書は非常に有用である。また、裏テーマとして本書は相対主義や懐疑論との対決も意図されている。これも初学者が多くの場面で苦しめられる問題なので早めに本書を読んで抗体を作っておくのがいいだろう。

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