他国を知り、自国を知りたい人のための学問、「地域研究」

2015-12-05 04:18:10 +0900 written by 齋藤 竜太

「地域研究」は、一言でいえば「特定地域に精通する専門家を育成するための学問」となります。これが研究枠組みとして誕生したのは第二次世界大戦後と、比較的新しいといえます。 しかし、民族紛争やテロ、開発といった、様々な問題が山積する現在の世界情勢を鑑みると、特定のものさしでは量り切れない、その国や地域独特の「文脈」を捉えることは、今後ますます重要になってくると思われます。 そして、漠然とした「国際社会」ではない、特定の地域を深く知るほど、その対照として自国の別の側面が見えてくるのも、地域研究のおもしろさです。

1 地域研究概論 (国際学シリーズ)

「地域研究」という学問領域に関わるようになったころに見つけた概説書のなかで、読んで最も得心が行ったのがこの一冊。地域研究を始める大学生におすすめ。 地域研究という学問分野の枠組みの成り立ちから始まり、宗教からその地域を捉えることの重要性、「国家」という枠組みが国によって一定でないこと、相対的なもののみかたの重要性など、最低限必要なエッセンスは詰まっていると思われる。「地域研究の方法」では、対象地域の設定から地域言語の習得、必要ディシプリン(方法論)への拡大から、トータルとしての地域研究へと、具体的な研究の流れを示しているところは、「親切」の一言につきます。

2 変貌する現代世界を読み解く言葉 (東京外国語大学・海外事情研究所叢書)

実際に地域研究、もしくはそれに近い分野に携わっている研究者による叢書。発行は1997年、内容は1993年のもので、データとしては古いが、収められている章はいずれも読みごたえ十分。研究対象地域を設定した後で、どう研究を進めるか迷っている初学者におすすめ。 特に最初の「煉獄としての≪民族≫」は、特定の国を研究する場合、その国もさらに多様な下部グループを持っていることを示唆している。そして、他の章からは、「民族問題」や「多文化共生」という同じトピックでも、地域の文脈によって様々な様相を見せていることを示している。

3 構造・神話・労働 (新装版)―クロード・レヴィ=ストロース日本講演集

文化人類学の大家、クロード・レヴィ・ストロース(1908-2009)が1977年に日本に滞在した時の講演集。1978年に初版が出て以降、長く再版されなかったが、2008年に新装版が出版された。 現地調査・長期滞在が求められるという点において、人類学と地域研究は共通しているが、この本からは、研究者が「現地」とどのような関係性を持つべきか、外界との関わりによって変化する現地とどう向き合うか、などについて、示唆に富む発言が数多くみられる。

4 白い城

最後は、学術書ではなく、小説を紹介する。トルコ人作家として初めてノーベル文学賞を受賞した、オルハン・パムクの『白い城』。 物語は、17世紀にヴェネツィア商人である主人公がオスマントルコの海賊に襲われ、奴隷として売られた先で、自分にそっくりの「師」と出会うところから始まる。主人公は自身が持つ西洋の知識を提供することで王宮内で生き延びる一方、「西洋」と「東洋」のはざまで様々な葛藤と向き合うこととなる。 地域研究を進めていくうちに、また、海外に長期滞在する過程で、多くの人が直面するのが、「我々」と「彼ら」の間にある、考え方や物事の捉え方のかい離である。西と東のはざまに位置するイスタンブールを長く執筆の題材にしてきた、作者のオルハンパムク自身、このことを折に触れて指摘している。 地域研究を初めて数年が経ち、現地にも何度も足を運び、長期滞在を終えた、またはその最中の人におすすめ。