わくわくするような未知の知との出会い

植物工場の行方

「やがて訪れるであろう食糧不足に向けて」

(2015年 イノベーションジャパン出展(イチゴの超音波受粉装置))

今回のコラムは【近未来農業?!植物工場のイマを知る】という本棚を作成いただいた浦入 千宗さんに書いて頂きました。本棚だけでは伝わらない、本棚や専門領域への情熱や背景を覗いてみましょう。

自己紹介

はじめまして、浦入千宗です。京都大学大学院農学研究科修士課程を修了し、現在は(国研)農研機構にて野菜害虫の総合的防除に関する研究を行っています。

学部では中国直立穂イネにおける光合成能の窒素応答性に関する研究を行い、大学院では完全人工光型植物工場におけるリーフレタスの光周期最適化を行っていました。また、半年間のアメリカ留学中には主に植物の水ストレスの研究を行いました。

実は身近な植物工場 -もやし、豆苗だけじゃない。リーフレタス、トマトも-

植物工場とは、施設内で植物の生育環境を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設をさします。

植物工場には、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う「完全人工光型」と、温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により周年・計画生産を行う「太陽光利用型」の2つがあります。

(ミシガン州立大のラボセミナーにて )

これまで、前者では主に葉菜類が、後者では葉菜類に限らず、トマトやイチゴなどさまざまな野菜が生産されてきました。とりわけ完全人工光型植物工場においては1970年代に日本で研究が開始され、1980年代半ばの第1次ブーム、1990年代の先進的農業生産推進に向けた国家事業導入による第2次ブームを経て、2009年以降は経産省と農水省の合同国家プロジェクト導入により第3次ブームに突入しています。

なぜ惹かれたのか

漠然と農業に対する問題意識を持って農学部に入学した私は、学部1年の夏、たまたまドキュメンタリー番組の植物工場特集を見たことがきっかけで植物工場に関心を持つようになりました。

狭い土地でも多段式栽培により高い収量をあげることができ、光や温度、二酸化炭素濃度などを植物にとって最適な生育条件に合わせれば、天候などに左右されることもなく生産性を最大限に伸ばすことができる――。

ちょうど、大学で農学の基礎講義などを受講して「やがて訪れるであろう世界人口増加に伴う食糧不足に、従来の農業のやり方では決して対処できないのではないか」と考えていた矢先だったので、赤や青のLEDでレタスやイチゴが水耕栽培されている映像をはじめてみた時には衝撃が走りました。

(ミシガン州立大の人工気象室(ポインセチア))

植物工場の行方 -水耕栽培の観点から-

完全人工光型植物工場では一般的に水耕栽培を導入しています。水耕栽培とは土を使わず、必須元素を無機イオンの形で溶かした養液(つまり現行の植物工場では化学肥料を水に溶かした無機養液)を用いることで植物にとって必要な根圏の環境を整える手法のことをいいます。

植物工場での水耕栽培には、栽培管理が簡易である、無菌栽培により安全安心な野菜が生産可能、などといったメリットがある一方で、人工的な栽培環境であるがゆえに消費者の持つイメージがあまりよくないこと、病害が一度発生すると栽培植物が全滅するリスクがある等のデメリットが存在します。

植物工場産野菜のイメージアップを図るため、また病害によるリスク低減のために有機肥料を用いた水耕栽培がこれまで何度も試みられてきました。しかしながら有機肥料は必須元素を有機物の形、つまりそのままでは根から吸収されない形で含んでおり、有機質肥料の無機化技術、なかでも植物の多量必須元素である窒素成分の効率的な無機化技術の開発には長年至りませんでした。

(ミシガン州立大の植物環境制御ラボにて)

しかし近年、微生物による発酵技術を応用してこの課題を解決できる画期的な手法が開発され、現在普及に向けての取り組みがなされています。この新技術の開発によって、より土壌条件に近い形での水耕栽培が可能となり、従来の水耕栽培野菜よりもしっかりと根のはった、病気に強い野菜が生産できるかもしれません。

また、食物残渣などを利用した、微生物の力によるエコな無機化技術であるため、水耕栽培に限らない多方面での応用も期待されます。その他、水耕栽培の養液中に有機物由来の光触媒物質を添加し、LEDの光を葉ではなく根域(水面)に照射することによって養液中の菌の増殖あるいは藻類の繁殖を抑える技術の開発なども進んでいます。無農薬無化学肥料の植物工場産野菜が店頭に並ぶ日もそう遠くないかもしれません。

本棚の紹介

私の本棚では、上で述べたような「現在進行形で」研究開発が行われている内容は含まない、既に社会実装されている技術に関する内容が書かれた本や、植物工場ビジネスの話がメインで文系の方にもわかりやすく書かれた本、植物工場をよりよく知るために知識として持っておくと便利な植物生理学に関する本などを紹介しています。

(アイスランドのトマト植物工場事例(店舗併設型))

浦入さんの本棚を読む:【近未来農業?!植物工場のイマを知る

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