独学の肝は、学んだ知識を「抽象化」して「異文脈適用」させるところにある

独学で何か新しいことを学んでも、それを他の場所で活かすことが出来なければ意味がありません。教養を身につけるということは、得た知識を自分の中で咀嚼して他の場所で用い得るようになることなのです。

この連載について

知の見取り図は「何かを学びたいと思ったとき、その一歩目になる場所」を目指しています。とりわけ信頼できる学知においてそうです。しかし、知の見取り図を使うときは多くの場合が教養を身につけるための独学になると思います。人に教えてもらえるような環境とは違う中で、何をどんな風に学んでいくのか。そんな「独学」についての連載【人生百年時代の独学の価値と方法】をしていくことにしました。

この連載の初期は山口周さんの「独学の技法」という本を下敷きにしていきます。2017年11月に出たばかりの本であること、またその内容が一般的な独学の本よりもはるかに構造化されていることが理由です。連載の続きを待っていられないという方は是非書籍を購入して読んでみてください。

連載:人生百年時代の独学の価値と方法
vol.1なぜ今独学なのか? 4つの社会的要因から独学と教養の価値を考えよう
vol.2 あなたは独学に必要な4つの視座を持っているか:戦略、インプット、抽象化、ストック vol.3人生百年時代の教養:独学に戦略が必要なのは「時間とインプット方針」が重要だから
vol.4教養を身につけるための独学におけるインプットの重要性
vol.5独学の肝は、学んだ知識を「抽象化」して「異文脈適用」させるところにある

 

学んだことは抽象化すると価値が上がる

さて、早速話を始めていきましょう。著者は独学において重要なのは戦略→インプット→抽象化・構造化→ストックの4つであって、良く本屋で見る独学の本はインプットの部分ばかりにフォーカスを当てていると言います。今回は抽象化・構造化(今回は異文脈適用という言葉を使います)のパートを紹介していきます。

抽象化というと、色んな場面で使われるので何となく意味がわかっている人も多いと思います。しかし、最初にこの言葉を定義してしまいましょう。抽象化とはモデル化であり、モデル化とは「本質的なものだけを強調して抜き出し、後は棄て去る作業」です。重要なのはメカニズムやシステムであって、具体的な部分ではないのです。

早速例を上げてみましょう。例えば「I love you(私はあなたを愛する)」とか「She eats cookies(彼女はクッキーを食べる)」といった英文を見てみます。ここでは同じ単語は全く使われていませんが、全く同じ構造が見て取れます。つまり「主語、動詞、動詞の対象」という順番で単語が並べられているということです。

これがわかると「ああ、ということは『犬がフリスビーを噛む』も、このシステムで表現することが出来るんだな」ということが理解出来ます。これこそが抽象化の基本的な作業です。大事なのはその文そのものではなく、その裏にあるシステムを理解するというところにあるのです。

つまり「知っていることしか語れない」状態で留まるのではなく「知っていることを仮説にして他の文脈で応用できる」状態になることが、独学では非常に重要なのです。

もはやいちいちすべての文を覚える必要はありません。主語の部分を置き換えたり、動詞を変えたり、対象を変えたりすることでどれほど沢山の表現が出来ることか! その「アッ、そういうことか!」と世界がひらける瞬間こそが学びの極めて重要な側面なのです。

抽象化と異文脈適用

英文だとわかりづらいので、より具体的に独学に即した形で話をもう一度します。特に教養や独学で身につけるような知識というのは、普段自分がいる場所ですぐに使えるわけではありません。例えばビジネスマンが歴史を学んだときに「人類は農業を始めたことにより、そのために必要な家畜を繁殖することで、彼らが持つ病原菌が人間にも伝染するようになり、何度も苦しめられてきた」ことを知ってもすぐにビジネスでは活かせません。

このままだと、人類と農業と病気の関係について人に説明するときまでこの知識は特に役に立ちません。これを文脈依存の知識と呼びましょう。でも実際にそういうことを直接話す機会が多いとは思えませんね。文脈非依存の知識に変えることが抽象化であり、モデル化なのです。

例えば「価値を生むために導入したXが、想定していなかったコストを生むことがある」という風に理解すれば抽象化に成功したと言えるでしょう。こんな風に抽象化しておけば、今後様々な場面で活用することの出来る知識になります。

「コンサルタントを呼んだことで様々な課題点が見えてきたが、どうにも改善されない。よくよく分析していくと、コンサルタントの介入によってチームの意思決定プロセスがごちゃごちゃになって、意思決定を行ってアクションに落とすところで混乱が生じていた。なのでコンサルタントはマネージャーに対してのみ提案をし、チームメンバーの前には姿を現さないようにした」

こんな事例は、まさに有益なものには導入の仕方によって問題が生じうるので、有益なものをうまい形で導入しないといけないということを発見するために先程の抽象化が役に立つ事例だといえるでしょう。

人類も農業も病気もまったく関係ないところで、その知識を抽象化したものをうまく用いることが出来るのです。これこそが良い学びであると言えるでしょう。文脈依存的な知識はもちろん極めて重要ですが、それだけだと専門バカと呼ばれます。その知識を文脈に依存しない形で再利用出来ることこそが知性の1つの形でしょう。

どんなことにも学びがある

そう、ということはこの世界で無駄になる学びなどというものは一つだってありはしないのです。その文脈でだけ用いるのならば、普段の生活で使わないため無駄になって見える知識もあるでしょう。イギリスの文学史を深く知っていてもそれだけでは日常では使えません。

しかし、戦争における勝利と覇権とが人々の文化や生活・世界の見方に影響していることを文学史を通してよく知っているのならば、うまくいっている組織ほど世界を歪んで捉えて後々間違った判断を行いかねないことを想像出来るはずです。

大事なことは学んだ内容そのものはもちろん、その内容を抽象化したことによって得られるモデルなのです。そのモデルを使って世界を捉えれば多くのことが理解出来るようになり、より良い方法を見つけることも出来るようになるのです。

教養を広げよう、独学をしよう

新しいことを学ぶこと自体はそれだけで楽しいことです。新しい視点を得ることで、世界を立体的に捉えられるようになります。これまで見えなかった世界の別の顔を知ることで、もっと豊かにこの世界を生きることが出来るのです。

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知の見取り図:http://mitorizu.jp

連載:人生百年時代の独学の価値と方法
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vol.2 あなたは独学に必要な4つの視座を持っているか:戦略、インプット、抽象化、ストック vol.3人生百年時代の教養:独学に戦略が必要なのは「時間とインプット方針」が重要だから
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