中東、テロのイメージを捉え直したい

「彼らとの戦争をする上でのルールはまだないのです」

(シリア国境の農村で出会ったクルド人一家。)

今回のコラムは【中東情勢~偏見を壊そう!新しい視座から見てみよう!~】という本棚を作成いただいた方に書いて頂きました。本棚だけでは伝わらない、本棚や専門領域への情熱や背景を覗いてみましょう。

 

【自己紹介】

こんにちは。東京外国語大学国際社会学部4年の矢加部真怜と申します。
大学でトルコ語と平和構築論という学問を専攻しています。主に、中東地域の民族紛争における「テロリズム」について関心を持っています。

 

【なぜ私が「テロの研究」に熱中しているか】

私には元来、「誤解され、孤立している人やモノ」に対して強い関心とシンパシーを感じる性があります。これには、間違いなく少年時代の原体験が、影響していると感じています。巨人ファンだというだけで仲間はずれにされたことや、いじめに遭いかけた際にやむを得ず反抗しただけなのに喧嘩両成敗で処理されたことなどから、世の中の不条理を味わい続けてきました。

そんな私は、中学三年時のトルコへの家族旅行がきっかけで、今の大学と専攻を選び、現在に至ります。トルコのクルド人やパレスチナ人に対して行われ続ける「テロとの戦い」について学ぶ度に、そして現地の人々と友情を深める度に、彼らの屈託を感じてきました。「戦っている当事者であれば、どちらにも大義はあるのに、一方的に我々だけが『テロリスト』として悪魔化され、『テロとの戦い』の名目で無差別に攻撃される」という思いを彼らが抱えているのを感じました。私はそんな彼らに、思わず過去の自分を重ね合わせずにはいられませんでした。

 

クルド人は、「国を持たぬ世界最大の民族」と言われ、トルコ、イラク、シリアなどの国境で分断されている。各地で独立や自治を求めるも、各国政府から苛烈な弾圧を受けてきた。トルコではその結果、クルド民族主義を掲げる過激派組織PKK(クルディスタン労働者党)が台頭した。現在まで30年以上に渡ってトルコ政府との間で内戦を行い、双方の民間人に15,000人以上の犠牲者が出た。トルコを始め、多くの国家がPKKをテロ組織に指定している。

 

【テロにおける問題意識と、本棚の意義】

ところで皆さん、メディアの中東関連の報道でよく見聞きする「テロ」って言葉、どういう意味だか考えたことはありますか?元々は「テロ」って、ラテン語の「恐怖」という言葉が語源になっているのですが、何と定義がないんです。定義がないから、それぞれの人が相手の行為を非難するために、便宜的に「テロ」という言葉を使うのです。

それなのに、私たちは「テロ」という言葉を目にした時に、ついその言葉に何の疑問も感じることなく受け入れがちです。「黒い覆面の男達」「自爆攻撃」「民間人が大勢死ぬ」こんな、漠然とした、しかし恐ろしいイメージと共にこの言葉を受け入れてしまいます。

そんな曖昧なイメージに振り回されて、「怖いな」「テロリストをやっつけなきゃ」「イスラム教徒って危ない人たちなのかな」こんな短絡的な思考に陥ってしまうのです。

 

(イスタンブル旧市街のスルタンアフメット・モスクとマルマラ海。トルコ人の99%はムスリム。)

 

しかし、いざISILのような「テロ組織」に対して「対テロ戦争」をおっぱじめると、世界は安全になるでしょうか。残念ながら、答えは、ノーです。

世の中における「戦い」には、全てルールがあります。例えば野球には、「アウト3つで交代」などのルールがありますね。サッカーにも、「90分経って点数が多い方が勝ち」などのルールがあります。実は、国と国の戦争にも、戦時国際法というルールがあります。(いつも守られるとは限りませんが。)

しかし、「テロ組織」というのは国家ではありません。「宗教の極端な解釈」「排他的な民族主義」などの「思想」を拠り所にした集団です。つまり、彼らとの戦争をする上でのルールはまだないのです。

(クルド人が多く居住する、トルコ東南部ディヤルバクルの路地の、PKKを礼賛する落書き。多くのトルコ人から「赤子殺し」として忌み嫌われるPKKも、クルド人の一部にとっては自らの窮状を世界に知らしめるきっかけをつくった英雄なのだ。)

 

ここに、「テロとの戦い」の最大の落とし穴があります。現在、世の中で起きている紛争の殆どは「国vs国」ではなく、「国vs非国家」「非国家vs非国家」の構図をとっています。ルールのない試合を始めてしまうと、「何をもって試合終了とするか」「何を持って勝利とするか」こんな当たり前のことが戦っているもの同士で一致しないので、泥沼化の一途をたどってしまうのです。

今、中東などの地域で起きていることを理解するためには、「①どうやって、『テロリスト』が生まれたのか」「②なぜ、彼らは『テロリスト』という、客観性を欠いた蔑称で呼ばれているのか」この二つを、ローカルな視点からそれぞれのケースについて、じっくり見ていかなければならないと私は考えています。

 

(現在も「テロとの戦い」の舞台となっているパレスチナ・ベツレヘムの難民キャンプ)

この中東情勢の本棚には、日本人には馴染みのないイスラム世界の文化、風習、政治に精通した研究者達が、単に「起きている事象」だけではなく、その背景を踏まえて①と②のヒントを提示している本が多く収録されています。

皆さんが、この本棚を通じて、少しでも新たな視点を得て、世の中を様々な角度から見て、その課題の解決を模索する面白さを少しでも実感してくだされば、これ以上の喜びはありません。

 

矢加部さんの本棚を読む【中東情勢~偏見を壊そう!新しい視座から見てみよう!~

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