わくわくするような未知の知との出会い

国の看護師=世界のナース

看護師こそ、先駆的にグローバルな人材となるべき

今回のコラムは【医療人類学ーグローバル化する保健医療の理解へー】という本棚を作成いただいた池田さんに書いて頂きました。本棚だけでは伝わらない、本棚や専門領域への情熱や背景を覗いてみましょう。

【自己紹介】

こんにちは。上智大学総合人間科学部看護学科4年の池田裕子です。 国際看護学、NP(ナースプラクティショナー)、看護現象学、シュミレーション医療教育、医療経営学、に関心があります。現在は、米国はじめ各国のNP、及び日本におけるNPの可能性を模索し、看護師含めあらゆる医療職間での理解を促進しています。また、各国のシュミレーション医療教育の現状を調査中です。

 

【専門の紹介】

国際看護学は、国籍、人種、文化、宗教、信念、等を問わずに、人権を尊重し看護ケア提供をしていくことです。先進国・途上国問わず、諸外国の医療や看護との比較の中で日本の看護を見つめ直していくこと、または諸外国へ足を運び、その土地の民族性や文化を尊重しつつ、医療供給及び看護ケアを実施することです。単に海外支援をすることや、グローバル視点を持つ、ということではなく、多様な文化や各国の看護を柔軟に取り入れ、比較し、それを日本においても患者さんとの関わりに生かしたり、柔軟な姿勢で日本の看護を見つめ直したりすることも含まれていると考えています。これは国際的な興味の有無関係無しに、患者さんの人権を守る役割を担う医療職従事者には、誰でも必要な視点だと思っています。

また、近年世界的に急速な発展を示しているNP(ナースプラクティショナー)についても、国際的な視点から日本を見つめることができます。NPが最も発展しているアメリカから、NP発展の歴史やNPが社会へ貢献している現状を学ぶことができます。また、NPが自国だけではなく途上国へ出向き、グローバルに社会へ貢献している実績もあります。そのように国際的な視点を持つことで、日本の看護が海外へ果たす役割や海外から見た日本の看護を探ることができます。

 

なぜそれを好きになったか

私が看護という道を志したのは、実はとても最近のことです。看護学科といえば、看護師や医療に携わる何かを目指して入学する人が多いかと思いますが、私はもともと音楽家志望でしたので、高校時代まで志望校は音大しか考えられませんでした。また、もともと海外が大好きだったことや、海外支援に興味があったことから、音楽を途上国で活かした国際貢献ができないかと考えていました。

そんな中、高校時代は国境なき医師団やJICAに憧れ、「医療は直接人を救うことができる、でも音楽は不十分だ」と気付きます。しかし文系だったことから、医療は他の人に頼もう、とスンナリ納得し、「海外へ行く医療陣に付いていき、その時音楽とコラボしてもらおう」と勝手なことを考えていました。その後、音楽だけではなくあらゆる学問を多角的に学びたい、という潜在的な欲求に気付かされ、急遽音大受験を辞め総合大学の外国語学部を狙うのですが、失敗に失敗を重ねます。

同時期、上智大学に看護学科が新設されます。国際色豊かな大学と看護学とのコラボレーションは、魅力以上の何ものでもありませんでした。入学後、カンボジアへのボランティア活動に参加し、医療アクセスの不便さ、衛生上の問題、教育の大切さ、などに気づかされ、途上国支援について考えさせられます。

その後フランスパリへ留学をし、EUの移民問題や医療制度・医療教育について学びます。そして昨年アメリカへ看護留学をした際には、多国籍、多文化社会に自分も身を置くこととなり、アメリカ人とは誰か、アジア人とは誰か、日本人としての自分はどこへいったのか、ということを考えさせられ、多様な文化の中で人々と共存していく大切さとに気づかされます。

その中で、歴史的にも人種差別に敏感なアメリカだからこそ、人種を細分化して対応策が練られてきたことや、教育の現場で多文化社会における医療供給を注意深く学ぶ姿勢などに、日本にはないものを感じ取りました。まだまだ日本は「日本人が住んでいる」という認識がある中、グローバル化の加速に伴い、一刻も早く日本の看護教育も見直すべきだと焦りを覚えました。

このように、途上国・先進国問わず、あらゆる国の看護を覗き新たな発見があることに、面白さを覚えました。また、海外が好きで海外に飛び出したにも関わらず、その後さらに好きになったのは日本である、という自分にとって意外な変化もありました。国際的な視点をもつことで、日本の良さや課題に、より敏感に気付くことができるという点も、国際看護学の面白さです。

 

【専門が社会へ与える意義】

人種によって異なるのは文化や宗教だけではなく、身体的にも異なります。例えば傷の治癒の速度や、発症しやすい病気、症状の表出程度なども異なります。つまり提供する看護ケアも変化させなければならないのです。国際看護を学ぶことで、身体的な面からもそれぞれのアプローチ方法を考えることができるのです。

また、人は元来、自分たちのコミュニティーの外から来た者に対して、注意深くなってしまい、排除してしまう傾向にあります。それは自分たちの仲間及び文化・文明を守るためでもあります。しかし現代において外の人々を排除することは、あってはならないことです。一方で現状は難しいと言えます。この地球に住む者全員が、互いのコミュニティー外からの人間と柔軟に関わることができているならば、差別問題や移民問題、難民問題、宗教戦争等は起きていないはずだからです。

また、日本の医療現場において外国人に対する不当な対応があったという類いの事件も起こらないはずです。人種や文化や言語が違う人に対して、初対面の時からウェルカムな姿勢を持ちましょう、と言われたところで、国全体の人がそれを実行することはやはり難しいです。

しかしそれは、知識や経験の量によって改善され得るものだと考えています。例えば海外経験や留学経験のある人は、突然目の前に、海外から来られた、肌の色も言葉も文化も異なる人が現れたとしても、避けたり差別的な言動をしたりすることなく、関わりをもつことができると思います。それは比較的海外の人と関わった経験が多く、慣れているということや、日本とは異なる文化に精通していること、それによって柔軟に対応できることが影響していると思います。そのように柔軟な対応ができる人は、海外経験の有無に限らないと思います。他国の文化や宗教を知っているかいないか、という点はとても大きなことです。

つまり「知識」があることによって、目の前にいる外国人の文化背景、宗教など、自分たちとは違う「何か」をまずは受け入れることができます。もしかしたら分かり合えないことや、日本に馴染まないことがあるかもしれない、と問題を予測することもできます。患者さんの人権を守る役割のある看護師は、特にこの姿勢が大切だと思います。

 

【本棚の紹介】

グローバル化が進むにつれ、日本の病院でも多国籍の患者さんが来院する機会が増えています。その時に必要なのは、世界共通語の英語だけではなく、文化や宗教、そして英語以外の言語、治療や生と死に関する価値観の違い、などが挙げられ、理解しなければならないことがたくさんあります。痛みを訴える時の言葉でさえ、文化背景があります。

オリンピックも間近なので、多文化社会においての医療を考えるきっかけになると良いです。医療人類学、看護人類学、多文化社会における保健医療、医療通訳、のテーマを含んだ本棚となっています。「文化的な多様性の受容」、「文化に感受性のあるケア」について考えさせられます。

 

【読者へのメッセージ 】

海外のことについて話し合いが成される時、「ここは日本だから」と壁を作ってしまう人がいます。同様に、海外へ眼を向けることを勧めた時「私は海外に興味がないから」「英語が苦手だから」「日本で働くから」という一点張りで、外の世界を見ようとしない人がいます。しかし、日本が好き、日本で働きたいという人ほど、海外へ眼を向けることは大切だと思います。

例えば、「日本に住んでいる大半の人は日本人」つまり「看護提供をする相手も日本人」という固定観念のもと、病棟で勤務をしている時、看護師側は少なくとも、相手を日本文化の枠組みの中で捉えたり、自分の価値観を押し付けたりしてしまうことがあるかもしれません。その場合、看護提供をする時や情報を取る時に、「なによりもまずその人の宗教は何かを確かめよう」という思考は生まれません。その結果、紹介した本棚で述べているように、相手の多様な文化を柔軟に受け入れることができず、相手の文化背景によって生まれる痛みの表現や精神状態、身体的特徴に盲目になってしまうかもしれません。

時には、そのような海外の人に対して、対応が面倒だと感じたり、慣れていないために不当な対応になってしまったり、理由も無く怖いと感じてしまったりすることすらあるかもしれません。グローバル化が進むにつれ、日本の現状も急激に多様な社会へと変化してきています。そのような社会に対応できるように準備をしておく機会を得ることが必要です。特に、人権を扱う看護師は、どんな背景を抱えた患者さんであっても、その人権を守る義務があります。

つまり看護師こそ、先駆的にグローバルな人材となるべきなのではないでしょうか。看護人類学を学ぶことで、看護師は、医療や看護ケアを求めて来るあらゆる人を守る役割を担うことができれば良いなと願っています。国際社会の一員に相応しい文化的能力を身につけた看護師が今後の日本でも必要とされます。是非読んでみてください。

 

池田さんの本棚を読む:医療人類学ーグローバル化する保健医療の理解へー