わくわくするような未知の知との出会い

明日に多様性を伝える:保全生態学

目に見えない多様性に気付く機会を提供する



今回のコラムは【日本人がペンギンから生態保全を考える道のり】という本棚を作成いただいた石井さんに書いて頂きました。本棚だけでは伝わらない、本棚や専門領域への情熱や背景を覗いてみましょう。

【自己紹介】

中央大学法学部3年の石井孝侑です。大学では国際法について学んでいます。去年の夏に南アフリカ共和国で経験したボランティア活動の中で、実際に海鳥の生態保全に参加してきました。現地で活動をした日本人の数が少ないので、この問題への取り組みをもっと多くの人に知ってもらうために、帰国後は講演会や記事執筆などを通じて、自分自身の経験を広く知って頂くために活動を行っています。

 

【保全生態学】

保全生態学とは、別名を保全生物学とも言い、分類上は生態学の研究分野のひとつとされています。そのため、私は大学で法学を学びながら、学外で「畑が違う」学問に手を出しているのが現状です。しかし、私はこの保全学全般を勉強している訳ではなく、むしろ詳しく話せるのは海鳥とその周辺生物に限られてきます。

というのも、この生態保全学の目的は「生物の多様性を保全すること」と、「健全な生態系を維持すること」であるため、すべての生態系に精通しようとするならば、“浅く広くにならざるを得ない”という事情があります。加えて、各生態系は地域によっても、生息する生物が異なっているため、元来、生態保全学の専門家になろうとするならば、ある程度視野を狭める必要すらあると言えます。一方で、狭くしすぎるだけでは正しく関係図が描けなくなるので、海鳥のような移動性の動物に関しては、範囲を絞ると同時に、その関係性から彼らを大きく3つの分類分けをして、それぞれを分析しています。

まず、1つ目は、対象動物が餌としている生物です。たとえば、多くのペンギンにとっては、イワシがこの分類に当たります。2つ目は、対象動物を餌としている生物です。この場合もペンギンで考えてみると、シャチやオタリアがこれに該当します。最後の3つ目は、その他の関係性を持つ生物です。ペンギンの場合では、人間もここに含まれます。人間は、捕食や被食の関係にないにも関わらず、絶滅を含む生態数の減少に大きく関わっているので、非常に厄介です。しかしながら、人間は要素生物の中で唯一私たちが「意思疎通可能な生物」なので、私自身はここに、生態保全学に関わる問題の突破口があると考えています。

 

【なぜ惹かれたのか】

この生態保全学という学問は非常にマイナーな分野で、物理学・医学・法学・経済学のような知名度はありません。また、私はまだまだ全体像を掴めているわけでもありません。しかし、そんな私でも、この生態保全に魅了されているのは、ひとえに生態保全が「学際的」であるからだと思います。これは、どの学問を学んでいても、生態保全に携わることが出来るという意味です。法学でも、経済学でも、物理学でも、生態保全学はそれが扱う広大な範囲故に、あらゆる学問の助けを必要としています。他にも「この学問自体が面白い」「動物に以前から興味があった」「ペンギンかわいい」などの理由は挙げられますが、一番の理由は「こんな私でも役に立てるのではないか」と感じさせてくれたことにあると思います。

 

【保全生態学が社会に対して持つ意味】

保全生態学は、世の中に「多様性」を訴える学問です。そのために、私たちは生態系・種・個体を細かく分け、それぞれを理解しようと努めています。しかしながら、現在の技術では、残念ながら全ての要素を把握することは出来ません。それどころか、全てを分析することに固執すると、私たちの想定は「名もなき個体・生態系・種」によって簡単に崩されてしまいます。このような存在を無視して、不適切な開発を行ってきた歴史が、今の21世紀の惨状を作っているのだと私は考えています。このような現状にストップをかけるために、私たちは常に「見えない存在」を意識しながら、現実に即した予測を立てているのです。

また、これと並行して、私たちはそれらを社会に分かりやすい形で提供する必要があると強く認識しています。そのために、専門家は研究の合間を縫って、日々講演会などの機会を設けてはいますが、それも十分とは言えません。研究と同時に、このような活動を更に充実させることで、目に見えない多様性に気付く機会を提供することが、私たちが今できる世の中への貢献方法だと考えています。

 

【本棚の紹介】

私の本棚では、主に「ペンギンの目線から見た保全活動」を紹介しています。そのため、本棚にある本の中心的な記述は、彼らの生態系についてです。これらは一見、保全生態学の本流からは外れている並びにも見えると思うのですが、私はこのような回り道こそが生態保全学の意義だとも考えています。世に出ている分かりやすい本の中には、伝えやすいものだけを選び、それらだけを伝えようとしているものがあります。

しかし、生態を保全するためには、なるべくそのような本は避けて、「今わたしたちが気付いていないかもしれないこと」まで網羅している本を読む必要があると、私は考えています。なので、私の紹介する本の中には、筆者が感じた違和感などが実際の経験に基づいて記されているものや、読んだだけでは分からないような記述があるような本があります。そういった本を読むことで、読者の方に「これはどういう意味だろう?」と考えてもらえるようなきっかけを用意したつもりです。

【読者へのメッセージ】

ペンギンは人間のように二足歩行を行うことで有名ですが、その生態の多くが謎に包まれた生き物です。私も勉強をするまでは、彼らが木を登ることや、600m以上も潜ることが出来るなんてことを知りませんでした。また、あまり知られていませんが、世界で一番ペンギンを飼育している国は、この日本です。つまり、私たちは最もペンギンを見やすい環境にいるといっても過言ではありません。「あの駅でよく見るペンギンは何ペンギン?」「ハンバーガーのCMに出ているペンギンは何ペンギン?」といった、日常にある気付きから、ペンギンや生態の保全について知って頂けたら、これ以上の喜びはありません。私もまだまだ勉強中の身なので、一緒に学んで頂けたら本当にうれしいです。

 

石井さんの本棚を読む【日本人がペンギンから生態保全を考える道のり